<2000年『仮面ライダークウガ』>

「空っぽの惑星!時代をゼロから始めよう!」
 てな訳で新時代の仮面ライダーとして新たに作られたクウガの登場である。漢字で書くと『空我』。我は空なり。クワガタがモチーフ!
 新時代のヒーロー像を掲げて選ばれた主役俳優は期待の新人『オダギリジョー』。
 クウガはそれまでの特撮とは一線を画した重厚な設定、リアル志向によって作られたもので、要は昔特撮を見ていた子供達が「いや、それはネーよ」と思っていたツッコミどころを出来るだけ廃して見れるドラマとして作ったものだった。
 流れ的にアニメの「スーパーロボット」→「リアルロボット」に近いかもしれない。

 なにはともあれ、あらすじっ!
 遺跡発掘により、古代の一族グロンギが現代に蘇った! 彼らは自らの課したゲゲル(ゲーム)によって人類を殺戮していく謎の集団である。
 それに立ち向かうべく、同じく古代遺跡から発掘された謎のベルトを手に入れた五代雄介はベルトの力を使い、古代の戦士クウガに変身してグロンギ一族と戦うのであった。

 おおざっぱに言うとこんな感じ。
 話は二話構成。なぜなら一つの怪人につき2話割くことによって着ぐるみ代が節約出来るのだ(笑)
 おかげで前後編で、前編では必ずクウガは敵を倒せないというストレスの溜まる展開も多かった(笑)
 なんにしても、主人公の五代雄介です。新時代のヒーローとして選ばれた彼は冒険家で、飄々とした、それでも強い意志と優しさを持つ男だ。
 彼は戦いが嫌いで、敵と戦うのも嫌だ。けれど、それでも周りのみんなの笑顔のために……心の中で泣きながら、拳を振るうタイプの戦士なのである。
 この敵の設定がまたニクい。
 相手は人間と似た姿をしているが別の種族で、彼らにとっては人間を殺すのは狩りに過ぎない。鷹狩りとか鹿狩りと同じ。
 戦士の一族である彼らは自分たちの力を誇示する為に人間狩りというゲームをする。
 彼らは独自の文化・言語を持ち、登場当初は古代語を喋ってるので相手が何を言ってるのかさっぱり。
 絶対に分かり合えない敵。意味のない殺戮をする未知の敵という恐怖。
 それらを前に、戦うことが嫌いな青年が、それでも誰かの為に戦うというドラマ……それがクウガなのだ。
 そもそもプロデューサーの人が戦うことを格好良く魅せることが嫌いで、なるべく戦うことが格好よくみせないように編集されてるせいで、クウガの戦いはいつもは泥臭い。
 新しい能力を手に入れても古代の力だからいちいち解析しないと分からない。たとえば、新フォームに変身してもスピード型だと気付かず、「あれ? 力が弱くなってる?」と驚いてる間に敵にボコボコにされたり、都会で索敵型に変身したら周囲数十キロの音を聞き取って自滅して倒れたり……他のライダーに比べるとともかくクウガは格好いい場面が少ない。ライダーキックが初めて出るのも10話。(それまでは蹴ったらなんか敵が死んだ→もしかしたらクウガはキックが得意かも知れない!と徐々に解析していった)
 そして、クウガの力はやがて装着者を蝕み、同調率が上がっていく度に装着者を殺戮マシーンへと変化させていく危険な力。
 でも、みんなの笑顔のために、泣きながら彼は戦うのである。
 戦うことはいいことじゃない。でも、みんなの為には戦わないといけないことがある。
 そういう話だったと思う。

 ただ、クウガはリアル志向にしたせいでドラマパートが非常に長い。
 基本的な話が「グロンギがゲゲル開始」→「五代の周囲で悩んでる人がいる」→「クウガグロンギに負ける」→「敵の対策を考えてる間に五代が人助け」→「グロンギを倒す」というフォーマットで話が進み、五代という人間が周りの人達を感化させることに重きを置いて、6話なんか物語の8割が自殺しかけた少女の心を癒すことに話が費やされ、ラスト1分でクウガに変身して敵を倒すという話だったりした。
 でもまあ、そういうところは子供と一緒に見ていた若奥様達にバカ受け。後、中二病の中高生達にも受けて(古代語、変身のリアル志向な能力設定など)仮面ライダーシリーズはこの層が主な支持層となったりしたとかしなかったとか。

 ちなみに話のオチとしては、最終回の一話前で世界を滅ぼす究極の闇の力を持ったグロンギと対決するために、五代雄介も究極体へと変身。しかし、優しい心を失わず自我を保ったまま最終決戦に挑み、雪山で泣きながらラスボスと殴り合いをするという話だった。
 最終回は主人公不在のままエピローグ。
 と、これだけ聞くと凄く訳の分かんない話に聞こえるけど、全話通すと凄くいい話なんですよ、コレが。
 哲学さん、クウガの最終回の放送日がセンター試験の最終日だったんだけど、正直クウガの最終回の方が気になってました。

 ちなみに、クウガには基本フォームが4つあり、バランスタイプ、パワータイプ、スピードタイプ、射撃タイプ、を敵によってモードチェンジして戦う。仮面ライダーBlackRXの発展系。
 2年後にはガンダムSEEDの主人公機のストライクガンダムが3タイプのモードチェンジして戦ったりと、この時期のフィクションものではそういう「流行」があったと思う。
 後、この2000年12月には映画『バトルロワイヤル』が発表されて、戦うってのはよくねーことだとかそんな風潮があったような気がしなくもない。
 

 さて、新時代のヒーローとして俳優デビューしたオダギリジョーであったが、その後、『サトラレ』とかに出たりして、「きれいな」役どころを次々とこなすんだけど、途中で『俺はそんな清廉潔白な人間じゃネェよ!』と反発たのかヤクザの若がしらとか、殺し屋とか、斎藤一をしたりと、悪役を多数することになる。
 これは昔の特撮ヒーローの俳優によく見られた傾向で、時代は繰り返すんだなぁ、と思ったり。
 そんなヒーローなんてガラじゃない、なんて言うオダギリジョーではあったが、クウガのスタッフは尊敬しているといい、クウガスタッフとは今でも親交がある模様。
 なんのかんので、オダギリジョーは今でも第一線で活躍する俳優だし、この作品は新時代を語るに相応しいいい作品だったと思う。
 まあ、ヒーローものとしては余りにも泥臭くて、格好いいシーンは少ないかもしれないけどね!