<2006年 仮面ライダーカブト編>

「俺は天の道を行き、総てを司る男……天道総司
 てなことで平成ライダー史上最高の自己中かつ、ゴーイングマイウェイな男が主人公のカブト編である。
 モチーフは男のロマンのカブトムシ!
 俺ツェェェ全開の、中二病全開の、主人公最強物語だ。
 強いヤツが問答無用で好き放題して、敵も味方も振り回す子供の欲望全開のヒーロー像である。
 普段は働いてない。自分にはやるべきことがあるから! 仕事はいつか本気出した時にする! 実際に本気出したら余裕でそこらのプロを圧倒できる! 実力があるのでどんなワガママも通用する! だって俺天才だし!
 大丈夫、俺を信じろ! なんでも俺に任せろ!
 そんな実力至上主義の精神的マッチョマンの物語である。

 それはともかくあらすじっ!

 1999年、東京の新宿に隕石が落ちて、新宿は廃墟と化した!
 その7年後の2006年。実は人間世界には隕石の中に潜んでいた宇宙人――ワームが擬態して潜り込んでいたことが判明。
 警察は対ワーム用組織ZECT(ゼクト)を組織、宇宙人<ワーム>に対抗すべく、マスクドライダーシステムを開発。
 だが、そのライダーシステムを操れる者がおらず、ZECTの部隊がワームに全滅させられようとしたその時、謎の男が変身アイテムを奪い、仮面ライダーカブトに変身し、ワームを倒す。
 彼の名は天道総司。彼は自分がワームと戦う使命を帯びているといい、ZECTの連中とは単独にワーム退治を続けていく。
 一方、ZECTも次々と新型ライダーシステムを開発し、ワームに対抗。
 天道総司ZECTの見習いの加々美 新(かがみ あらた)と共にワーム退治の戦いへとその身を投じていく。
 だが、そのうちにライダーシステムが1999年よりも前に作られていたことが発覚。
 実は35年前に別の隕石で宇宙人<ワーム>達は既に地球に到着しており、人類に隠れて暮らしていたのだ。
 35年前に地球に帰化していたワームこと、ネイティブ達は後から来た同族のワームに狩られないようにするために人間と協力してマスクドライダーシステムを開発していたのである。
 <ワーム>は人間に擬態する。実在の人間を完全にコピーする。
 妊婦であった天道の母はワームに殺され擬態された。それにより、お腹の中に居た胎児の妹もワームとなってしまっていた。
 ゆえに、天道のワームである実の妹を守るため、人間のまま暮らさせるために妹に自分の正体を気付かせないようにしつつ、ワームと戦い続けていたのだった。
 けど、天道の妹が実はワームであることを知ったり、世間でワームの存在が明らかになって世の中は大混乱。
 結局、妹がワームってことがバレた途端に、天道はワームも、人間も関係なく、敵対するヤツ全てと戦うようになる。
 とどのつまり、天道は、たった一人の妹を守るために世界の全てを敵に回して戦うことになるのである。
 結局の所、天道があそこまで最強だったのはいつの日か妹以外の全てと戦うために、世界最強の男を目指して自分を鍛え続けたという狂気のたまものだったとも言える。
 まあ、色々あって、ネイティブ達は人類を自分たちと同じワームにしてしまう計画を立てたり、最強過ぎる天道の能力をコピーしたワームを作って対抗するも、結局最強過ぎる天道に破れるのであった。
 色々あったけど、天道のおかげで、人類にもワームにもいい奴と悪い奴が居ることが伝わって、まあ彼らは共存の道をこそこそと歩むのであった。(公には進まない)


 あ、劇場版はまた全然違うあらすじ。
 劇場版は巨大隕石が落ちて地上の海が全部干上がった世界。
 人間よりもワームの方が地球には多く、数少ない生き残った人類はZECTによって支配されているという世界観。
 そして、ZECT軌道エレベーターを建設してて、大量の水を含む巨大彗星を引き寄せる計画を企んでいた。それを落とせば地球に再び海が蘇るのである。
 けれど、実はそれは彗星ではなく、ワームが大量に乗った隕石を呼び寄せる計画だった。
 天道はZECTレジスタンスの戦いに乱入し、最強のライダーの持つハイパーゼクターを強奪。クロックアップを越えたハイパークロックアップにより、時空を越え、過去の世界に飛び、最終的には現代の隕石と過去の隕石を衝突させ、1999年に落ちる隕石を小さくした。
 これにより、歴史は修正され、テレビ版に似た世界になる……みたいな話。
 映画は単体で面白い話なので、興味がある人はどうぞ。
 最強のライダーが曲がり角で正座しているという爆笑ものである(何


 と言う訳で、最初っから最後まで天道総司が最強な話だった。いや、重度のシスコンで、実の妹が自分の正体に気付いて失踪したりしたらメンタルガタガタになったりしてたけど(笑)
 彼はナンパ対決だろうが料理対決だろうが、何でもかんでも「俺は、天の道を行き、総てを司る男だ(キリッ」と言う言葉で強引に切り抜けていくなんでもありのキャラである。
 とはいえ、彼が含蓄のあることを言う時には必ず「ばぁちゃんは言っていた……」と前置きが置かれる。お前はロストユニバースのケイン・ブルーリバーかっての(笑)
 破天荒な彼ではあるが、祖母の厳しい教えをきっちり受け継ぎ、守るべき者を守るために戦う姿は一応ヒーローしていたか。
 というか、上にも書いたけど、『妹を守るために世界の全てを敵に回して戦う』と言うのが実はこの話のメインコンセプトかもしれない。妹を守るためなら世界最強の男にだってなれるんですよ、ええ。
 後、なんのかんので天道総司が強いのは、隕石が落ちてから7年間、ひたすらいつかワームが活動を開始した時に戦えるように、毎日毎日体を鍛えていたからなのだが。(漫画の『ホーリーランド』に近いかも)
 まあ、実はその隣で、最初はドジでヘタレだった見習いの加々美新が徐々に成長していき、ちょっと頼りないけど、熱血漢のヒーローとして育っていった姿の方が印象的かも。
 現代的な、最強型主人公と、成長型主人公のタッグで物語を進めていくのは上手く行っていたのではないだろうか。

 肝心のマスクドライダーシステムだけど、これはワームの超高速移動をする能力に対抗するクロックアップという機能があり、超高速移動しながら戦う。
 最近のラノベで言うと『アクセルワールド』とまんま同じ設定である。
 超高速空間で、民間人の知らない間に仮面ライダーと宇宙人がバンバカ戦っているのだ。
 また、ZECTは色々とマスクドライダーシステムを作ったので、今作も仮面ライダーが複数出てきたりする。
 どれも癖のある個性豊かなメンツばかりでギャグあり、シリアスあり、で前年の響鬼より人気はあったらしい。


 なにはともあれ、今作も最終的には『異種族<宇宙人>との共存』がテーマとして描かれることになった、と言うよりも、メインは『たった一人の為に世界の全てを敵に回せるか』だよね。このテーマは次の年『コードギアス』に引き継がれる。
 『クールな天才系最強主人公』と『不器用な努力系熱血漢』の対比、『組織』と『個人』、と色々とやったんだけど今思い返してみると『ともかく天道が偉そうだった』と言うことくらいしか思い返せない(笑)
 終わってみれば「今年も仮面ライダーはグダグダに終わった」と軽い癖がついてしまった。


 それはともかくとして、高速戦闘は同系統として、後にライトノベルで『アクセルワールド』が出て来る。
 後、翌年の2007年には『コードギアス』が始まったり、天才主人公系の作品がこの前後に流行る。
 それから2006年は仮面ライダーとは関係ないけど、『涼宮ハルヒの憂鬱』がアニメ化されて大流行。
 この年から毎クール驚くほどアニメが制作されて、大量の深夜アニメが跳梁跋扈することになる。
 『武装練金』もアニメ化するし、『Fate/stay night』もアニメ化。その他大量の萌え系深夜アニメが出まくり。
 なんていうか、中二病全開の年だった気もする。
 あ、あと関連作品として、自分の実の妹が血の繋がらない化け物だったという点は『偽物語(下)』があるよね、と付け足してみる。



 しかしまぁ、こうして最強ライダーがぶいぶい言わせる話にちょっと東映は反省したのか、次の年、ライダー史上最弱の仮面ライダーが誕生することとなるのだった。