<2001年 仮面ライダーアギト編>

「目覚めよ! その魂!」
 さて、クウガによって新時代が幕開けた訳だが、それに続いて作られたのがこのアギトである。
 泥臭いクウガに反省したのか、今度は殺陣やアクションが非常に格好良く、ヒーロー的なカタルシスの強いストーリーで、ギャグもあり、かつ仮面ライダーが三人という群像劇なのである。
 一人は、記憶喪失の青年、津上翔一(賀集利樹)くん。彼は五代みたいに飄々としたタイプの人間だけど、五代よりもましていつもニコニコニコニコしてて、おちゃらけたことばかり言う人間なのだが、アギトに変身すると、途端に洗練された戦士の動きをし、敵を圧倒する。実は彼は無我の境地に達してて、何でも器用にこなすし、不可能を可能にする実に超人みたいな男。
 もう一人は、事故によって体が変質してしまった葦原 涼(友井雄亮)。ギルスに変身する。ネタバレすれば、彼は不完全な形でアギトに進化してしまい、新しい力に体がついていかず、常に変身の後遺症に苛まれるのだ。いつも傷つきながら戦う彼は古いタイプのヒーローとも言える。
 で、最後にただの人間氷川 誠(要潤)。彼は警察官で、警察で開発されたパワードスーツ「G3ユニット」を着て戦う。ポジション「ライダーマン」。彼はひたすら不器用で、戦う度にアギトにもギルスにも勝てず、敵の怪人アンノウンにもボコボコにされるという最弱っぷり。それでも、彼は不器用なりに努力し、何度も何度も立ち上がりながら、人間のまま、人間として戦い続けたもっとも勇敢な男。
 さて、あらすじはというと、これがまたぶっ飛んでいる。
 ある時、人間には絶対不可能な方法で次々と人間が殺されるという不可能犯罪事件が多発。
 実はその被害者を辿っていくとみんな何故か超能力者のような力が覚醒していた兆候があった。
 そして、その被害者を襲っていたのはアンノウンという謎の怪人の仕業だった。
 記憶のない津上翔一は何故かアギトに変身し、本能の赴くままにアンノウンとの戦いに投じていく。
 超能力者の素質を持つ者を何故か殺していくアンノウン達。その事件を追っていくウチに、アンノウンの仕業に見せかけた殺人が行われる。
 すると、アンノウンは口を開き、こういうのだ。「人ガ人ヲ殺シテハナラナイ」。
 実はアンノウンの目的は『新人類<アギト>』へ進化しつつある人間達の抹殺だった。
 アンノウンは神の御使いであり、不要な力に覚醒しつつある新人類を抹殺するために神が使わした存在だったのだ。
 そもそも古代、光の神と闇の神が戦い、闇の神が戦いに勝利した。しかし、光の神の力は世界に拡散され、種として闇の神が作った人類の魂に埋め込まれたのだ。いつか目覚めるために。
 そして、『新人類<アギト>』とは、光の神の力に目覚めた存在だったのだ。
 だが、アギトの目覚めに応じて古代より眠っていた神も目を覚まし、アギトにの抹殺をもくろむ。
 進化した種である「アギト」と「人類」は相容れない存在だからである。
 この神との戦いは最終回の6話前に一端の区切りがつき、神は休眠期に入る。ここで終わってればよかったのに……(何)
 ラスト五話がまさかの超展開。
 人類の中で次々とアギトに覚醒する人が増加。それに呼応して闇の神が再び目覚めて星の位置を動かし、「蠍座の人間は全てドッペルゲンガーを見て死ぬ」という相変わらず訳分からない神罰という名の不可能殺人を敢行。 
 神罰により世界は混乱するし、アギトに覚醒する人類は人類に迫害されるし、どうなるんだこれ?あと一話なのにまとめられるのか? これどう見てもデビルマン的終末戦争に突入するしかないよね……。
 ここで、ラスト前で主人公の翔一くんの出した結論がまた泣ける。
「俺も、生きます! 俺の為に、アギトの為に、人間の為に!」
 人類とアギトの両方を守るために立ち上がる翔一くんには胸が熱くなるね。(全部見てない人には分かんないだろうけど)
 最終的には神は「どーせ人類とアギトは共存できないよ」「いや、人間はアギトを受け入れる器があるよ」「じゃ、見守りましょう」と言うことでまた神さまが休眠しました。
 後は人類とアギトを信じて任せましょう、というお話。

 と言う訳で、「人類の進化」と「進化種との共存」、「造物主との戦い」など色々とてんこ盛りのアギト。
 ぶっちゃけると哲学さんは平成ライダーで一番アギトが好きである。かなりのファンタジーだしね。
 なんでここまでファンタジーになったか分かんないけど、アギトの一年前にはブギーポップのアニメ版が放映されてたり、このアギトの一年後にはガンダムSEEDで人類とコーディネイターの戦いが描かれることになる。
 みんな21世紀になって人類は更に進化する、て信じてたんでしょうかね。
 人類で真っ先にアギトに進化した翔一くんは無我の境地に達してるし、なんでもホイホイこなして、いつも笑顔で仙人みたいな青年だ。でも、だからこそ、自分というものが薄かったんだけど、最後に自分のために、という決意が込められたのが色々と哲学さん的に感動ポイント。
 そして、進化に失敗し苦しみ抜いたギルスたる涼は……なんかよく分かんないけど、適当に旅立っていった。
 氷川君は最後まで、不器用だったけど、でも人間のまま、アギトに進化しないまま、最後には神の御使いたるアンノウンを圧倒して「貴様は何者だ?」と聞かれて「俺は人間だっ!」と啖呵を切るシーンはとてもよかった。

 ごめん、完全に哲学さんの思い出語りになってる。

 ちなみに、アギトは基本3フォームを持ち、敵に合わせて変身するというクウガスタイル。しかも、クウガ以上に洗練された動きで、敵と戦う。ストライクガンダムと同じだ!
 ギルスはクウガとは対照的に荒々しく野性的に戦い、爪でのひっかき攻撃や牙でかみついたり、触手を伸ばしたり、と悪役に近いアクション。
 G3は……まあ、パワードスーツだね。うん。メカ。銃とかで戦う。

 あと、実は物語の中盤に翔一君以外でアギトの力を制御した木野さんという人が出て来る。この人は途中で力におぼれてしまい、「アギトは俺一人でいい」と他のアギトを襲い出したりと危険な人だったけど、最後は改心して神との戦いに参加してくれます。
 40代のオッサンライダー。しぶいおっさんがライダーに変身して戦うとか凄いロマンだった。超格好良かった。
 アギトはそれまで一人だけだったライダーが物語開始時点で複数いたということでライダー史上でも画期的で、またライダー同士で争うということも目新しくて、色々と挑戦的な作品だった。


 あっと、あと一つだけエピソード紹介。
 『G3ユニット』はせっかく未知の敵と戦うために警察が作ったパワードスーツなのにてんで敵を倒せない。そこで、物語の中盤、新しいパワードスーツが警察で作られることになる。
 そこでコンペが行われて、『G3』の進化形『G3-X』ユニットと、『V1』システムが出されることになる。『G3』シリーズは警察にいる天才女発明家が開発したものなんだけど、『V1』システムはその発明家の恩師の教授が作ったもの。
 『G3-X』ユニットは天才発明家が作っただけ合って凄く性能が高い。でも、機械が先読みして一切無駄のない動きを計算してして体を誘導しようとするので、AIの動きと違う動きをすると体がついていけなくなり、装着者の体はすぐにボロボロになってしまう。
 強すぎるけど、そんなの無我の境地にでも到達した達人でもなければ使えない。勿論、氷川くんも扱えず、装着する度にボロボロになっていく。
 一方、V1システムは現実に即した普通に強いだけのパワードスーツ。
 コンベンションでV1システムは氷川君のライバルのエリートが乗るんだけど、コンベンション中にG3-Xは暴走。AIに逆に操られてしまい、氷川君はV1システムをぼこぼこにした挙げ句、そのまま外に出てたまたま現れたアンノウンを撃破し、更に通りがかったアギトに襲いかかるという暴走っぷり。
 『G3-X』は確かに強いけど誰にも扱えない代物になってしまった。(……といいつつ、試しに翔一くんが着てみたら自由自在に操って使いこなしていた。酷い。これが進化した超人と凡人の差か)
 そこで、ライバルだった恩師の教授が『G3-X』のAIの改造プログラムを渡してくれる。
 実はそれは、『G3-X』のAIの弱体化プログラム。
教授「彼女は天才過ぎる。道具は所詮道具。どんなに凄くても、人間が使いこなせなければ意味がないんだよ」
 教授が作ったプログラムはAIの動きをある程度弱くすることによって、人間に使えるレベルにまで落とすものだった。確かに完全版よりは弱くなったかも知れないけれど、それでも充分に強いし、普通の人間にも扱える。
 実にこの話らしいエピソードだったと思う。




 さて。
 なにはともあれ、これにて石ノ森プロとバンダイの契約は終了し、平成仮面ライダーシリーズはクウガとアギトの二作で終了……かと思いきや、オモチャの売り上げで気をよくしたバンダイがごねたのである。
バンダイ「来年も仮面ライダーをしろ」
「え、でもシナリオも何も用意してないけど?」
バンダイ仮面ライダーの後に始まる予定だったメタルヒーロー用のシナリオを使え。んで、タイトルを仮面ライダーに書き換えろ」
「んな無茶な」

 そんな無茶が通り、次の年、『仮面ライダー龍騎』という訳分からないデザインのよく分かんない設定の仮面ライダーがスタートすることになるのであった。