<2003年 仮面ライダー555編>

 アギトリベンジ! アギトでやり残したことをもう一度! てことでアギトのスタッフ再結集で作られたこの作品。
 モチーフはホタル! 夜中でも光る格好いいライダーだ! ちなみに555(ファイズ)と読みます。
 さらに変身アイテムがケータイ電話で、子供が憧れるものをモチーフにして子供が真似しやすい従来の子供向け路線にやや戻っている。
 あと、裏テーマとして無気力無関心の、やりたいことが分からない若者というものがあると思う。
 物語は、死んだ人間の一部が蘇るという現象が各地で見られるようになることから始まる。
 実は蘇った人間達は人間の進化種オルフェノクとなって蘇っていた。
 各地で散発的にオルフェノクが人を襲う事件が起こり、そこへ偶然、オルフェノクを倒す力を持った変身ベルトを手に入れた乾巧と言う青年がオルフェノクとの戦いに巻き込まれていく。
 一方、乾巧とは対照的に、木場勇治という青年は事故で一度死んだ後、何故か蘇った。
 蘇ったはいいが、昔の恋人は他の男と付き合ってるし、財産は叔父にぶんどられてるし、蘇ったのに全てを失ってしまった。
 夢破れて、憎悪に囚われた時、彼はオルフェノクという化け物に変身する。
 人間の進化種のはずのオルフェノクの多くは夢破れた人間が多く、最初は憎悪に囚われて戦っていた木場はそんな仲間達を集め、人を襲うオルフェノクを倒すために戦うことを決意する。
 一方、自分になにも夢のない、やりたいこともない人間であった乾巧も他の人の夢を守るために戦うことを決意し、人の夢を壊そうとするオルフェノクと戦うことになっていく。
 その戦いのさなか、乾巧と木場は人間状態の時は友情を深め合い、変身後は互いに宿敵として戦い合う皮肉な運命を辿る。

 映画版では人間がほぼ根絶され、世界はオルフェノクによって支配された絶望的な未来が舞台となっており、アギトの世界でもしかしたらあり得た未来がそこで描かれる。
 ちなみに映画版では人間とオルフェノクの間で迷い続けた木場君は結局オルフェノクの王となることを決意して、人類の抹殺者側に回ってしまう。
 その戦いのさなか、実は主人公の乾巧もオルフェノクだという正体がさらされる。
 それでも、巧は人として戦い、人を守り続ける為に戦い続けるエンド。

 そして、本放送は色々と中盤ぐだついた挙げ句、オルフェノクの王という存在が覚醒して、人類を続々とオルフェノク化していき、世界をオルフェノクによって支配しようとオルフェノク側がもくろむも、巧が王に深い傷を与え、王は長い眠りにつくエンド。
 ……っておい、アギトリベンジした割には、アギトと類似した中途半端な終わり方じゃないかっ! なんだよっ! 途中まであんなに面白かったのに!
 と見た時は思っていたのだが、以降このシリーズは映画の終わった秋くらいからグダグダな展開が続くことが多くなるのであった。(何

 結局、人類と、その進化種の共存というテーマはうやむやになったものの、夢のなかった乾巧という青年が「誰かの夢を守る」という夢を手に入れるという物語だった。
 極論を言えば、結局は誰かの為に生きようとしないと人生つまんないぜ!ていうペトロニウスさんのよく言ってるような話。

 まあ、要は「ライダーと怪人の共存」というものがテーマとしてあり、龍騎で出した「それぞれの人間にそれぞれの正義があり、それを一概には否定できない」から、「怪人にもいいやつと悪い奴が居る」的な話に進んでいったとも言える。
 なんにしても、人類と進化種との共存のテーマは以後ライダーシリーズでも何度も使われ、中途半端なまま終わっていくのであった。(コラ


 さて、ここでヒーローものらしくライダーの戦い方についても言及すると、クウガは主人公が空手などやってたし、アギトは無我の境地に達してるので非常に洗練された動きをして戦う。
 その一方で、龍騎は戦いの素人なので、序盤の龍騎は見てておいおい、と分かるくらいにずぶの素人の戦い方。
 一方、このファイズはと言うと、戦闘スタイルがヤンキーである。喧嘩戦法。
 手をぶらぶらとさせて、大振りに敵を殴り、敵をヤクザ蹴りするという不良みたいな戦い方という。それでいいのか……乾巧(笑)
 まあでも、仮面ライダー555は夢破れたアウトロー達の物語だし、そういうヒーローがいてもいいかもしれない。
 あああと、バンダイの意向で毎年仮面ライダーガンダムは物語の後半で新アイテムや新フォームが出たり新機体が出るのだけれど、仮面ライダーのスタッフはそれが気に入らず、この作品はそれが特に顕著でパワーアップの仕方が凄い投げやりなのだ。
 最高に格好いいアクセルフォーム用のアイテムは旅から帰ってきた仲間が「これやる」とぽいっと主人公に投げつけるし、ライバルのパワーアップアイテムは天井からぼとっ、と落ちてくる。さらには555最強フォーム用のパワーアップアイテムは郵便で届くのだ。パワーアップなんてどうでもいい……そんなスタッフの意気込みが感じられる作品だった。


 ちなみに同じ、2003年には無気力な少女を主人公にした『千と千尋の神隠し』が上映され、少女が人の為に働くことが描かれている。
 他にも、失ったものを取り戻そうとする物語として『鋼の錬金術師』がアニメ化されたり、夢破れたアウトローが死んでまた蘇ってくる『ガングレイヴ』とか、『ガンスリンガーガール』のアニメ一期とか、『君が望む永遠』のアニメとかやっていた。
 色々と夢破れたものとか、何かを喪失した物語の多い年だったように思う。
 


 まあ今まで見てきたとおり、ライダーシリーズは同じ時間帯にやっている戦隊物と比べれば、物語構造が非常に複雑なものが多く、中高生や、若奥様とか、往年の特撮ファンには受けていたものの、真のメインターゲット層と言われる幼年期の子供達には難解すぎて思ったよりは人気がでなかったとか。(決してなかった訳ではない)
 そこで、バンダイは更なるてこ入れをこうじ、今度はトランプをモチーフにした『仮面ライダー剣(ブレイド)』を翌年放送することになる。