<ジョジョの奇妙な冒険第六部『ストーン・オーシャン』について>

 では語ろう、まずは『ジョジョ』の第六部『ストーン・オーシャン』について。第六部は難解な話が多かったりで全体的に人気が少ないと言われたり、今でもいろいろな解釈が飛び交ってて画一的な評価ってのは難しい。
 だから、これはあくまで哲学さんの解釈だと思って頂きたい。
 で、簡単に言うと、つまりはこういうこと。

 宇宙は一巡したっ!
 ラスボスであるエンリコ・プッチ神父の念願は成就し、人類はついに天国へと到達した!!!
 これは恐るべきことであるが、しかし、プッチ神父はこれを人にとっての『幸福』であるとした。
 果たしてこれはどういうことか。

 すまない、テンションがあがりすぎて話を先走ってしまった。整理しよう。
 ジョジョの第六部は空条承太郎の娘、空条徐倫(ジョリーン)が主人公の物語。
 ラスボスであるプッチ神父との激闘の末、主人公チームは全滅。
 プッチ神父の望み通り人類は新世界へと到達するのである。
 主人公チームの全滅というかつてないほどのバッドエンド。
 新しい世界とは――『天国』とは何か。
 ざっくりと言えば宇宙が一巡した先の未来へ、過去の記憶を持ったまま到達すること。
 ビッグバン仮説というものがある。
 宇宙とはビックバンという爆発によって拡大していくが、やがてそれは収束し、再び原初の宇宙に帰る。
 その後どうなるかと言えば、もう一度ビックバンが起きて、同じく宇宙の歴史が繰り返されるというものだ。
 訳が分かんなかったら、ラスボスの不思議パワーで宇宙が一回消滅してもう一回再構成されたと思えばいい。
 これだけならばまだいいのだが、プッチ神父が望んだ世界は人々がこれから起こる出来事をなんとなく知った上で生きることだ。
 強くてニューゲームであり、前世の記憶を保持したまま生きるというような物。
 ただ、別に前世の記憶があるからと言って未来は変えられない。前世で道を歩いていて転ける人間は転けるし、前世で交通事故で死んだ人間はもう一度交通事故で死ぬ。
 しかし、明日死んでしまうとしても、それをあらかじめ知った上で人生を過ごすのなら、人は『覚悟』を持って生きていけるし、一日一日を大事にするだろう、て話。それが人類の『幸福』なのだと神父は思ったのだ。
 末期ガンの告知に似てる気がする。
 それをジャマしようとしていた主人公とその仲間達をラスボスであるプッチ神父は歴史から抹消!
 因果が断ち切られてしまったため、その存在そのものが世界から消えてしまった。
 『一巡』した先の地球では、おそらくジョースター家の血統は存在せず、空条承太郎空条徐倫もいない。
 正義の味方は世界から消滅し、そこにあるのはエンリコ・プッチ神父という悪党が残ってしまった。
 世界も改変され、主人公達も全滅。
 後に残されたのは、主人公の旅についてきた孤児――エンポリオ少年だけ。
 DIOの代行者であるプッチ神父は因果を断ち切るため、空条(ジョースター)家に希望を託されたエンポリオ少年を倒しにやってくる。
 絶望的な状況下の中、互いに代行者である二人は戦い、色々あって、ともかくエンポリオ少年が勝つのである。
 かくて世界は守られた。
 パンドラの箱を開け、希望という厄災を人類すべてに振りまこうとした巨悪は倒れた。それによって『人々がこれからの未来を知ったまま生きる』状態は消える。
 世界は救われたのである。
 だが、今までのジョジョにおいて『正義』を貫いてきた血統、ジョースター家は消滅。
 世界を救う為に戦った人達は、その存在そのものが歴史上から消えてしまった。記録にも残っていなければ、誰の記憶にもない。文字通り、世界から消えてしまったのだ。
 孤児であるエンポリオ少年は、救われた世界でただ一人、孤独に荒野をさまようしかない。
 なんという悲しい結末だろうか。こうして世界が救われたというのに、その勇者が救われることはないのである。
 ……かと思われた。
 エンポリオ少年はアメリカの荒野をさまよい、そして一人の女性と出会う。 
 それは歴史から消滅したはずの、徐倫の仲間、エルメェスに似た女性。
 呆然とするエンポリオの前に更には空条徐倫に似た女性と仲間のアナスイに似た男性が現れる。次々と死んで、世界から消えてしまったはずの仲間らしき人間達が引かれ合うように集まってくる。
 彼女は名乗る。
「私はアイリン。彼はアナキス。(中略)……あなたの名前は?」
 彼らは宇宙から消滅したはずだった。
 空条徐倫と呼ばれた女性はもういない。仲間達ももういない。
 でも、エンポリオ少年には分かった。彼女の肩にある☆のアザをみて確信する。
 記憶も失い、名前も、姿も変わってしまって、別の人間になってしまったけれども――それでもまた『彼ら』は『出会った』。
 ジョースター家はなくなったとしても、彼らの『魂』は消滅しなかったのだ。
 もう、彼女はエンポリオのことを知らない別人でしかないのだけれども――それでも、万感の思いを込めて彼は告げる。

エンポリオです。
 エンポリオ
 ぼくの名前は……ぼくの名前は、エンポリオです」
 ただただ涙するしかない。切なくも美しいラスト。
 ジョジョの奇妙な冒険は、第一部からずっと正義の一族、『ジョースター』家の人々の生き様を描いてきた。
 そして六部のラストにて、『ジョースター』家そのものが消えてしまったけれど、たとえジョースター家がなくなったとしても、その正義や魂が消えることはない。
 彼らの因果はこれからも紡がれていくのである。
 引力、すなわち愛!! ジョジョ第六部っ完!!!!!



 ちなみに、ジョジョ八部では、二人の人間をこねくり回されて作られた人造人間が主人公で、血統もなければ、過去もない、完全に『作られてしまった人間』が主人公。主人公自身にはなんの因果もない。自分が何者かのアイデンティティが消失している状態からスタート。でも、元の人間が持つ過去や、因果が、呪いのように彼を襲い来る物語だ。荒木先生は更に先のテーマへ踏み出してて相変わらずすごいなぁ、と感心することしきり。
 なんにしても、今思い返しても、ジョジョ第六部のラストは圧巻だった。傑作。




 で、えーと、『君の名は。』の話をする? もう大体分かったと思うけれど。