ミレイ・アシュフォードと言う女

 今回の放送(コードギアスR2 TURN12 ラブ・アタック)でみんなシャーリーだシャーリーだと騒いだりオレンジだオレンジだと騒いだりしているが、それよりも今回の主役が誰だったかみんな忘れていないだろうか。
 どう考えても今回の主役はミレイ・アシュフォード生徒会長だったと思う……と言ってみる。

 彼女の立ち位置は視聴者の大部分からすればただの変人にしか見えなくて、なんでロイドさんと婚約者なの?なんで中華連邦に来てるの?とひたすらみんな首を捻ったかも知れない。
 でも、それは大きな間違いである。
 彼女は大きな物語における、そしてルルーシュの人生における凄まじいほど重要な立ち位置にいる存在だと思う。

 彼女のアシュフォード家はルルーシュの母、マリアンヌの後援者だった。閃光の騎士と呼ばれたマリアンヌがアシュフォード家の開発したナイトメアフレームのテストパイロットだったり、母親が殺された時にルルーシュが皇帝に謁見した時に貴族達が「これでアシュフォード家も終わりか」と囁いていた…… と思う。
 なんにせよ、アシュフォード家がルルーシュの母マリアンヌの後援者だったことに間違いはないだろう。
 そして、アシュフォード卿はルルーシュを皇帝として押し上げ、のし上がるためにどうするかと言えば、勿論、ミレイはルルーシュが生まれる前から、ルルーシュの婚約者として育てられたに違いないと思います。未来の皇帝夫人――つまりは皇后になるべくして、ファーストレディとしての英才教育を昔からつまされてきたと思う。
 が、マリアンヌは殺され、ルルーシュとナナリーは日本へ人質として送られ、アシュフォード家の権威は失墜。大幅にその力を落としたと思います。
 そして、日本侵攻。死亡されたとされるルルーシュとナナリーという二人の皇族。
 没落貴族のアシュフォード家が植民地エリア11に押しやられるのもある意味真っ当なところだと思うけれど、それでもあんな立派な学園を作ってる辺りさすが、元「皇帝の寵姫のパトロン」といった所だろうか。
 でも、普通なら自分の娘を、皇后夫人として英才教育したミレイを植民地なんかには行かせないだろう。それでも、ミレイが日本に来たのはやっぱりルルーシュのためだと思う。また、 ルルーシュとナナリーが政治の道具として使われたことで貴族の世界に嫌気がさしていたのかもしれない。
 なんかんので、親が勝手に決めた婚約者だとしてもミレイはずっとルルーシュの事を好きだったんじゃなかろうか。そこへ、くのいち(笑)の一族が有力な後ろ盾を求めて近づき、サヨコさんが身の回りの世話をするようになるかも知れない。
 そしたらたぶん、ある日サヨコさんは小汚い物乞いの兄妹をくせ者として捕らえるかも知れない。妹の方は盲目で、歩くことも出来ず、兄の方はひ弱でそのくせ反抗心の高いギラギラした眼をしている。
 一発でミレイはそれがルルーシュだと分かるだろう。死んだと思った想い人が目の前に現れて、ミレイは天にも昇る想いだったに違いない。
 けれど、たぶんルルーシュの再会の最初の一言はこれに違いない。

「ナナリーを助けてくれ」

 たぶん、ルルーシュは絶対そんな言葉をミレイに対して吐いたと思うんだよねぇ。
 ルルーシュはもう政治の道具になるのは沢山で、貴族なんかとは一切関わりたくないはず――なのにそれでも、皇帝にアシュフォード再興のために売られることすら覚悟してミレイにルルーシュが近づくとしたら、そらもう、ナナリーのためしかないだろう。

 でも、そこはいい女のミレイ。少しがっかりした後、笑ってルルーシュを迎えてあげたと思うね。それで偽の戸籍を用意し、自分の箱庭である学園に住まわせ、外界とシャットダウンし、ひたすらルルーシュとナナリーを庇護した。ミレイはどれだけルルーシュに尽くしてるんだと。いい女過ぎる。
 んで、ロイドさんとの結婚話が持ち上がってるんだからたぶん、アシュフォード本家にはルルーシュとナナリーのことはひた隠しにしてたんだろうねぇ。
 そして、大好きなルルーシュを副生徒会長に指名し、学園の生徒会長として、精一杯自分なりの青春を楽しみまくったのだろう。楽しかったに違いない。だって隣にはルルーシュがいたんだから。

 けれど、それはスザクの転校から変わってくる。テロが激化し、ミレイ自身も富士山に行って、テロの人質になってしまう。
 そして、図らずも黒の騎士団に初めて助けられたブリタニア貴族になるのである。
 黒の騎士団のせいで(ルルーシュのせいで)、刻一刻と学園の外がきな臭くなっていく。
 彼女自身にもロイド伯爵との婚約話が持ち上がる。彼女の青春は終わろうとしている。
 だからこそ、ミレイは余計に人生を、今を楽しもうと縦横無尽に駆け回る。
 だが、ブラックリベリオンによって――黒の騎士団による東京侵攻で彼女の平和の象徴たる学園は黒の騎士団に占拠され、ナナリーはいなくなり、ルルーシュもいなくなり、親友たるニーナは狂い、彼女の平和は崩壊した。

 で、気が付けば彼女の記憶は弄られ、凄い腑抜けになったルルーシュと周りと協調しない弟の面倒を見続けることになる。
 この時はもう、ミレイは幼い頃何故ルルーシュと知り合っていたかとかそう言うことは忘れてしまい、何故こんな辺境の植民地にいるのかも分かっていなかったかもしれない。けれど、それでもルルーシュのことが気にかかって、貴族の政治の世界に帰ることを嫌がり、学園に残った。
 まあ、もしかしたら、ミレイだけはナナリーの事も知り、ルルーシュの記憶が消されたことも知った上で学園に残っていたかもしれないけどそれはないかなぁ。
 でも、アシュフォード家としてはナイトオブラウンドたるスザクの後援者のロイド伯爵とは親密にしておきたいし、かつての支援者であるナナリーが復権するに伴い、再び政治の世界で再興しようと動き出したかも知れない。
 だからこそ、いやいやながらも中華連邦にロイドの婚約者として随伴したのだろう。
 しかし、そこで見たのはゼロとシュナイゼルのやりとり。親友ニーナによる拒絶。
 天子とオデッセウス皇太子の醜い政略結婚。そして、それに端を発するクーデターと暴動。
 余りにもドロドロとした政治の世界。
 ミレイが未来の皇后として英才教育を受けていたのならば、きっとこの天子と第一皇子の結婚を自分とルルーシュに置き換えて想像していただろう。記憶がなかったとしても無意識に、だ。皇子と結婚することによっていかなる醜い争いが起き、それに巻き込まれることになるか。他の誰よりも身に染みて絶望したのではなかろうか。
 そして、今週の冒頭のシャワールームに繋がるのだと思う。
 彼女は苦悩し、自分の将来をどうするかの選択が迫られる中――シャワールームで想い人のルルーシュが、自分が中華に行っている間に女たらしになっていることを聞いてしまう。
 そして、キューピッドの日を発動。
 全てを吹っ切って卒業して前に進もう。全ての未練を断ち切ろう。
 そう思って開始を宣言しようとした時――それでも彼女が口にしたのは「ルルーシュの帽子を私の元に持ってきなさい」と言う一言。
 最後の最後で自分の隠していた想いに抗えなかったのだろう。
 嘘でもいいから、ルルーシュと恋人であるという証が欲しかったのかも知れない。
 彼女とルルーシュとの関係が未来の皇帝と皇后になるべくした婚約者、という「見える形の、形式上の恋人」からスタートしていることを考えると、この「形式上の恋人」がなくなった後、結局嘘でもいいから「形式上の恋人」という関係にすがった辺りに色々と浪漫を感じる。
 でも結局ルルーシュはシャーリーに捕まってミレイは苦笑するしかない。

ミレイ「あーあ、ちょっと残念」
サヨコ「――でも、けっこう本気だったんじゃないんですか?」

 この会話が色んなものを凝縮していて感慨深い。
 そして、彼女は政治の世界ではなく、芸能界へと活動の場を移す。
 その一端はやっぱり、親友ニーナとの別離もあったのだろう。
 また、弄られた記憶の中でルルーシュは彼女の庇護の必要のない人間として書き換えられているだろうから、ルルーシュ固執するのは逃亡中の皇族をかくまうという義侠心ではなく、我が儘でしかなくなっていただろう。
 また、黒の騎士団が現れてから、うすうす、もうルルーシュがミレイの力を必要としなくなってきていることに気付いていたのではないだろうか。それこそ、サヨコさんから一期の時点で「もしかしたらルル様は……」と聞いていたかも知れない。サヨコの主人はナナリーである前にミレイだろうから。

 なんにせよ、ミレイ・アシュフォードはルルーシュが生まれてから、日本で学園生活を送るまで、たぶんもっとも長い期間ルルーシュに接し、庇護してきた、文字通り姉のような存在だろう。でも哀しいかな、ルルーシュにとってはただの変人の姉でしかないんだよねぇ。むしろ、妹の方が大事。

 なんにせよ、シャーリーによって、ミレイは綺麗さっぱり初恋を終わらせ、「弟離れ」して学園から巣立っていった訳である。



 以上、酷い妄想でした。