刹那という少年からみるガンダム00

 00ガンダムが出てきて色々盛り上がったので、そろそろ刹那について再考してみようか。
 と言っても、一回しか通しで見てないのでうろ覚えの記憶である。
 それでも良ければ、哲学さんなりの解釈による刹那という少年の足跡を追っていきたいと思う。

 刹那は元々ソランという名の少年ゲリラだ。中東にて宗教戦争により、少年兵として子供の頃から「神のために」と教えられて戦場で戦い続けてきた。
 神様のため、と教えられて自分の母親も殺したし、神様のためと言われて何度も人殺しに荷担してきた。
 そんな泥沼の日々の中で少年は確信する。
 ――神などいないのだと。
 その年齢で本来ならば頼るべき対象である自分の母親も自らの手で殺しているし、すがるべき信仰は虚構だと気付いてしまった。
 もはや何も信じられるものがない絶望の中で、生き残るために、マシンガン片手にロボットと戦うという無謀な戦闘に明け暮れる少年。
 同年代の少年達は次々と殺されていき、自分もいないはずの神の元へと帰るのだと思った時、それは現れる。
 GUNDAM
 超機動兵器ガンダムである。
 泥沼の戦場の中で、唯一彼を救った、天空から現れた謎のロボット――ガンダム
 ガンダムは戦場に損座する全ての敵を圧倒的な力で叩き伏せる。蹂躙と言っていい。
 だが、そのおかげで死ぬはずだったソランという名の少年は生き延びた。
 その時から、少年の中でガンダムは神格化され、神の御使い的なものとして心に深く深く刻まれていく。


 その後、刹那はガンダムを擁するソレスタルビーイングという組織に拾われ、幼き日に心に刻まれた自らの神GUNDAMの影を追い、成長していく。
 そして、ついに刹那・F・セイエイというコードネームを与えられ、ガンダムマイスター(ガンダムの操縦者)に選ばれる。
 彼にとってガンダムの乗り手に選ばれるというのはただ単に強いロボットに乗れるというのと訳が違う。次元が違うと言ってもいい。
 彼が乗るガンダムにはエクシアという天使の名が冠せられている。
 幼き日、圧倒的な力で戦場を叩き伏せたGUNDAMガンダム>。
 世界中に溢れる戦争を根絶するために、ガンダムという兵器は投入された。
 ガンダムによる戦争の根絶。刹那という少年に取ってそれは天啓であり、使命であり、全てである。
 彼はただ自分の理想のために戦うのではない。それこそ、世界を救うために戦うのである。
 だからこそ、彼は言うのである。


「俺が、ガンダムだ」


 そこにはこの世界を救う存在GUNDAMになろうとする誓いが込められている。
 自らをこの腐れ切った世界を救う神の御使いにしようとしたのである。
 その為に彼は戦い続けた。


 だが、そこで彼は出会ってしまう。アリー・アル・サーシェスという悪意に。
 幼い頃、神の教えと称して自分に母を殺させ、敵を殺す事を教えた元ゲリラのボス、アリー・アル・サーシェス
 それが主義主張もなく傭兵として好き勝手に暴れ回っている。理由もなく、ただただ戦いたい、暴れたいという欲望だけで。


「貴様の神はどこにある!」


 幼い頃の自分は何だったのか。
 神とはなんだったのか。
 結局刹那の故郷は敵国に攻め滅ぼされている。
 死んでいった仲間達は、一体なんだったというのか。


 そんな慟哭を胸に抱えながらも、彼は「GUNDAM」という使命のために戦い続ける。
 だが、人は使命だけで生きていけるものではない。
 胸の奥で常にその疑問はくすぶりゆく。
 そんな中、一人の女性と出会う。
 その娘の名は――マリナ・イスマイールという。
 刹那の故郷を攻め滅ぼした国の姫である。


 任務をしくじった刹那はマリナ・イスマイールに助けられる。
 それは、彼女が旅先で同郷の人物に会えたと思ったからだという。
 知らない異国の地で、彼女は自分の祖国をよくするために戦っているのだという。
 国内の戦争はなんとか収まったし、地上エレベーターから電気さえ貰えればきっと国は豊かになるはずだと。
 ただ、ひたすら自分の国の為に動き、いい事をしているのだと善人面をする女だと刹那は思った事だろう。
 自分は世界を救おうとしているのに、この女は小さな世界しか見ていない。そして、刹那をも自分が守るべき対象だと見ている。
 刹那はもはや小さな存在ではない。GUNDAMなのである。神の御使いである。世界を救う使命を持つ戦士なのである。
 たかだかひとつの国すら助けられないひ弱な姫如きに知ったような口をきかれたくはない。
 だから、反発する。
 マリナ・イスマイールに名乗っていた「カマル・マジリフ」という偽名を投げ捨てる。


「俺はカマルじゃない。俺は刹那・F・セイエイソレスタルビーイングガンダムマイスターだ」


 刹那は誇るべきその使命を身の程を知らない女に突きつける。だが、女は「まさか私を殺しに?!」と見当違いな事を言う。
 何もかもがかみ合わない。
 苛立ちを胸に抱いたまま、刹那はマリナ・イスマイールの前から立ち去る。
 だが、それは彼の心に禍根をも残す。
 ソレスタルビーイングにおいて自分の過去は恐らくほとんどの人間に話していまい。
 マリナ・イスマイールに辛く当たったのもアリー・アル・サーシェスに対する苛立ちを八つ当たりにしたに過ぎない。
 何故あんな酷い事を言ってしまったのか。誰にも語るべきではない秘密を何故あんな女に語ってしまったのか。
 後悔と戸惑い。
 刹那は、マリナ・イスマイールへどこか負い目を感じ、マリナ・イスマイールという存在を意識しはじめる。


 やがて、マリナ・イスマイールの国で内乱が起きた。事件解決のため、かつての故郷であり、マリナ・イスマイールの国となった地へと舞い戻る事になる。
 そこで少年は見る。ボロボロの国土。滅びた街。マリナ・イスマイールが無力である事。
 だが、私情を捨て、彼は任務に走る。そこで、再びアリー・アル・サーシェスと戦い会う事になる。
 そして、何故戦うのかと問いかける。お前の神はどこにいるのかと問う。
 だが、アリー・アル・サーシェスの回答はただただ暴れたかったからというもの。
 結局、内戦を止められず、数多くの人達が犠牲となる。
 もう二度と自分のような悲劇を繰り返さないために、GUNDAMとなったはずなのに。
 刹那の過去はここに来て完全に否定される。悲しみと絶望の中、彼は呟くのだ。


「俺は……GUNDAMにはなれない」


 それでも、アリー・アル・サーシェスを撃退し、彼は誘拐されたその国の宗教の最高指導者を助け出す。
 そこで彼のとった行動は――戦わないことだった。
 全ての武装を解いたガンダムで、大衆の面前に刹那は姿を現す。
 国軍の防衛隊に砲撃されようとも、刹那はただ前へ進む。
 そして、要人を大衆の前で送り返すのである。マリナ・イスマイールの元へ。
 刹那はそのまま去ろうとして、マリナ・イスマイールに呼び止められる。
 彼はただ、もうこの国で戦うのはやめにして欲しい、とだけ伝え、その地を去った。
 だが、結局この国は内乱が続く事となるのである。


 しかし、刹那は故郷ばかりに構っていられない。世界全てを相手にして戦い続けなければならない。
 やがて、世界三大勢力の連合軍とぶつかり合うことになる。勝てるか分からない戦いだ。
 刹那は気が付けばマリナ・イスマイールに会いに行っていた。
 二言三言、言葉を交わし、そして去る。
 果たして彼がマリナ・イスマイールからかけて欲しかった言葉は何だったのだろうか。裏の世界でなく、表の世界で戦う彼女に何を求めたのか。
 そして、長時間に及ぶ戦闘と、圧倒的な物量の前に刹那は倒れる。
 そこへ彼を助けに来たのは――やはりガンダムであった。


 新たなガンダムが現れた。謎の三人組が操る機体。だが、彼らの言動には使命に対する気持ちなど微塵も感じられない。
 そして、それらはただただ軍事力を持つというだけの名目であらゆる人々を無差別に殺していく。
 彼にとって、GUNDAMガンダム>とはただのロボットではない。
 激情が彼を突き動かしていた。
 大切な何かを汚された少年は吼える。


「おまえたちが……GUNDAMであるものかっっ!!!」


 だが、刹那の怒りとは裏腹に、ガンダムの技術の一部が世界中に流出し、ガンダムもどきの機体が世界の軍隊の手に渡る。
 そして、ガンダムという力は戦争の道具に成り下がってしまう。世界を救うための力ではなく、醜い争いの道具に。
 何故こんなことになったのか。
 何処で道を誤ったのか。
 自分は、GUNDAMではなかったのか。
 戦いの中、刹那は自分がかつて所属していたゲリラが仲間であるロックオンの家族を殺したことを知る。
 同じくガンダムの乗り手であるロックオンに家族の仇を討たせろ、と銃を突きつけられる刹那。
 だが、刹那はそれを甘んじて受ける。


「俺が死ねば、お前が代わりに戦ってくれる。
 だが、俺が生きている限り、戦争根絶のために戦う。
 俺が、ガンダムだ」


 けれど、そんな彼をロックオンは認めてくれた。
 形は違えど、戦争根絶の為に力を尽くすティエリアとどこか通じ合えるものが出来た。
 彼らだけでなく、気が付けば刹那にはトレミークルーという仲間がいたのである。
 彼は一人ではなかった。
 そして、トランザム・システムという新たな力を得た。
 まだ、彼は世界に対して戦えるのである。
 激しい戦いの中で、散っていく仲間達。
 それでも、彼は戦う。いや、彼らは戦うのである。


「俺達が――ガンダムだ!!」


 長き戦いの果てに彼は自らの存在意義を見出す。
 やがて、戦いは終わり、世界は統一へと向かった。
 4年の月日が流れた。
 世界は変わったのか。彼は世界を回った。
 だが、何も変わらなかった。変わっていなかった。
 だから、叫んだ。


「破壊する! ただ破壊する! 俺達が望んでいたのはこんな世界じゃない!」


 かくて、再び彼の戦いは始まるのである。

 てな感じで、前期の刹那の足跡を追ってみた。
 本当はもっとグラハムのこととか触れたかったけど、グラハムのことを書き始めたら、好きすぎて暴走するからなしで。
 いや、なんというか、00ではグラハムが一番好きだったり。
 あー、でも半年前の記憶の再構築だから色々と不備があると思うので、これが正しいと思わないように。
 なんというか、刹那・F・セイエイという分かりづらい、扱いにくいキャラクターのことを知るひとつの指針になればいいかなぁ、みたいな。