新悪法『ネット規制法案』

 先月は人権擁護法案などがネットを騒がせたけれど、自民党高市早苗議員によって『青少年の健全な育成のためのインターネットによる青少年有害情報の閲覧の防止等に関する法律案』という名前だけは大層立派な悪法が通ろうとしているらしい。
 情報源はネットワークの自由を守る運動をしている「<リンク:http://miau.jp/>インターネット先進ユーザーの会<太>『MIAU」の幹事であるハンドルネーム「未識 魚」さんの「<リンク:http://ofo.jp/>osakana.factory」から。

 18歳未満の人たちがインターネット上の「有害情報」に触れないようにする対策を講じる法律案ってのが、3月の中頃から末頃にかけて、姿を現してきた。(中略)この法律案、ものすごくヤバい。(中略)

まず状況を整理しよう。本当は全部丸ごとコピペしたいところなんだが、そいつはもうちょっと待ってほしいので、とりあえず俺の要約と説明で耐えてくれ。


1. 自民党高市早苗議員が、『青少年の健全な育成のためのインターネットによる青少年有害情報の閲覧の防止等に関する法律案』という法案を詰めていて、これはかなり完成形になっている。池田信夫氏によれば、ブレーンとして警察官僚がついて条文を固めたらしいし、確かに法案の中にはそれをうかがわせる傍証もある(12条のネットカフェ規制とか)。

2. 一方民主党高井美穂議員を事務局等とするプロジェクトチームは、『子供が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案』というのを取りまとめている(ちなみに先の高市議員と高井議員は、国会議員の電話番号なんかが載っている「国会議員要覧」で見ると、仲良くお隣同士だ)。

3. これらの法案の目的は、「性に関する価値観の形成に著しく悪影響を及ぼす」とか「著しい心理的外相を与える恐れがある」とかそういうインターネット上の「有害」な情報について、青少年が見られなくなるよう全部フィルタリングすること

4. これらの法案が、今期国会の混乱のドサクサに紛れて提出され、あっさり自民党案が通っちゃい兼ねない空気になっている(と自民党議員は言っている)。

『日本の子供達からインターネットが消える日』より

 つまりは、混乱している国会のどさくさに紛れて子供達から有害情報を一切閲覧できないようなフィルタを作るように義務づける法律を自民党高市早苗議員が通そうとしている訳である。
 これだけを見ればいいことに聞こえなくもないが、その具体的な内容を見ていくととても酷い内容である。


 で、これらの法案の何がヤバくてムカつくのかという具体的な中身についてだが、民主党法案はかなりラフな体裁になっているのと、内容自体は不思議なくらいに自民党案とソックリなので、完成形が見えている自民党案に基づいて話しておこう。

1. 内閣府に設置される少人数の青少年健全育成推進委員会最大数5人)っていう組織が、インターネット上の全てのコンテンツについて、青少年に有害か無害かについての判断基準を作成します。ちなみにその基準へ異論を申し立てる方法はありません。(法案19条から31条)

2. 個人も含む全てのウェブサイトの管理者は、上記の有害コンテンツの基準に合致した場合、サイトを丸ごと未成年が入れない会員制にするか、フィルタリングソフトへ自らのサイトをフィルタ対象として申請することなどが、求められます。(3条1項)

3. 全てのISPASP事業者などには、有害コンテンツの削除やサービスの停止が求められ、従わない場合の罰則も設けられます。結果としてウェブコンテンツの削除は行われることになります。(3条)

4. 全てのPC・携帯電話について、国の基準に基づいたフィルタリングソフトウェアをプレインストール、あるいは、フィルタリングサービスに強制加入することが、PCメーカー(努力義務)及びキャリア(提供義務)に求められます。(5条、8条)

『日本の子供達からインターネットが消える日』より

 えー、見れば問題点は一目瞭然である。
 国内には何百というインターネットプロバイダーがあり、それらのプロバイダーには何千何万という会員のウェブページが存在し、それらをたった五人の人間の価値観によって正しいかどうかを断罪していくそうである。一番目からもうふざけるな、て話である。
 しかも、その判断に対して反論することは不可能。むこうが「有害」と決めつけたらあくまで有害で、言い訳も異議申し立ても出来ず、ただ従うことしか出来ない。たった五人しかいない人間の価値観で日本の全ての倫理観を決定され、間違っているかどうかの第三者の判断を仰ぐことも不可能な訳である。
 第二に、これは法人・個人の関係なく、この青少年健全育成推進委員会に吊し上げられたら反論を許されず即刻未成年が見れないように処置を行わなければならないこと。それが出来ないなら罰則があり、最終的にはウェブコンテンツの削除をされてしまうということ。
 例えば、こんな事がこんな可能性がありえる。

あるブログの書き込み>「○○ちゃんかわいいなぁ」

青少年育成推進委員会「あなたのその書き込みは青少年に有害なので18禁にします。フィルタを入れるか会員制にしてください」
ブログ管理者「え?ただ単にセクシー系アイドルの感想言っただけじゃないですか」
青少年育成推進委員会「反論は許しません」
ブログ管理者「でも、他にも似たようなことしてる人沢山いるじゃないですか」
青少年育成推進委員会「その人達もいずれ指定します。まずはあなたのサイトを指定します」
ブログ管理者「たった五人しかいない癖に無茶言うなよ!!」
青少年育成推進委員会「仕方ないですね。あなたのサイトはプロバイダーに言って閉鎖してもらいます」
ブログ管理者「うっせー!ここは俺が運営しているサーバーだ!関係ネェよ!」
青少年育成推進委員会「では、仕方ないのでサーバーを運営している所に強制的に立ち入らせて頂きます」
ブログ管理者「横暴だ!!!」

 ということになる可能性もある訳である。
 まあ、このブログに来てる人達の場合、簡単に言えば


とあるブログの書き込み>「今日アニメみたけど、○○が可愛かった!!あと、今週のマガジンの○○萌え!!!」

青少年育成推進委員会「青少年に有害なので18禁にするかサイト閉鎖してください」
ブログ管理者「はぁ? 感想書いただけだしエロイ絵も下ネタもないのにそんなことされてたまるかっ!!」
青少年育成推進委員会「反論は聞きません。さもないと(以下略」

 てなる可能性もある訳である。
 18禁同人誌サークルのサイトが18禁にされるのは不思議ではないものの、それの感想を書いたりするだけでも規制される可能性すらあるわけである。この「青少年健全育成推進委員会」のさじ加減によって。


 俺なりに問題点を3つくらいに整理すると、

1. 表現の自由の問題

 自治体レベルならいざ知らず、内閣府で委員会を設けて基準を示す上、間接的とは言え削除が行われるのは、検閲だろう!

 ……と叫びたくなるわけだが、だがしかし高市議員が老獪なのは、ちゃんと逃げ道を用意しているところ。それはつまり、内閣府の委員会自体は、単に基準を示しているだけで、実際のコンテンツの削除やらサービス停止やらフィルタアウトやらを行うのは、民間の事業者だっていう構図だ。で、コンテンツを封じたのは民間の事業者なので、文句はそっちへ言ってね、そのために調停機関は作るから、となっている。国は直接手を下してない、だから検閲ではない、どうだ文句あるか、という筋道。池田氏はこの調停機関の存在を評価されてるけど、俺は全然評価できないな。

2. 実効性や技術上の問題

 例えば、性的・暴力的な言葉があるという理由でWikipedia全体をフィルタするのって、本当に青少年の利益になっているのかね?という疑問は当然沸き起こるわけだけど、これにも反論は用意されている。「青少年の健全な育成のために、多少の弊害は止むを得ない」。だから多少ってどこまでなんだよ。

 あるいは、PCメーカや携帯キャリアのコスト上昇分に見合うだけの効果、「青少年を守る」という社会的な利益が得られるのかどうかの検証を経たのか、というような、極めて合理的な反論もありえるだろう。ところがだ、これも反論はあるんだな。「コスト云々と称して健全育成のための努力をしないことは社会的・倫理的に許されない」。

 また、LinuxのようなオープンなOSを用いたPCが作れなくなるんじゃないかとか、個人のウェブサイトを封じるような行為は、日本からのイノベーションや、自由な情報発信を殺すんじゃないか、というような、疑問もありえるだろう。でも、反論はきっとこんな感じ。「Linux? ナニソレ?まあ、作りたいなら法律守ってがんばれば?」

3. 教育など他の面からの視点が無い

 実はこの法案には、「インターネットの適切な利用に関する教育の推進等」という条文があるんだが(15条〜18条)、そこで述べられている教育ってのは、「ガキにフィルタリングソフトウェアを使わせるために、学校とか自治体とか国とかはいっぱい努力しろ」という、とても清清しい内容である。違うだろ!フィルタリングソフトウェアを使わなくても問題なく情報社会で生きていけるような技術なり、倫理なりを身に着けること、そういう教育へ注力する方がずっと大事だろうが! そんな教育のメソッドが無いっていうなら、それこそ国がカネを出して確立するべきところだろう。

 つまり、この法案で何がしたいのかというと、

* 18歳未満には国によってコントロールされた情報しか見せない
* 日本でインターネットに関係する全ての人間は、そのための犠牲を払え

 ってこと。これじゃあ、中国のグレートファイアーウォールを嘲笑できませんよ。この法案が成立した暁には、日本の18歳未満がつなぐ「ソレ」は、もう“the Internet”じゃない。
(後略)

『日本の子供達からインターネットが消える日』より

 んなことしたって海外サイトは止められない。例えば、インターネット総合掲示板の『2チャンネル』はサーバーが海外にあるので多分規制出来ない。運営も日本人スタッフはいるものの、日本の法人会社が管理してる訳でもない。2チャンネルがあれだけ叩かれてて何故閉鎖しないのかというと単純に日本の法律が適用されない法規制のゆるい国にサーバーを置いて、日本の法律の適用されない海外の法人会社が運営しているからである。
 そして、残された日本の個人が運営しているブログやホームページがこの五人の人達によって好き勝手に吊し上げられることになるのである。18歳未満に対してだけとはいえ、立派な第二の治安維持法である。言論弾圧である。
 それこそ、「今の政治は腐っている」と書いたホームページが「青少年に有害なので18歳未満は見れないようにしてください」と言われる可能性だってある訳である。そんなことして果たしてなんの意味があるのやら。
 まあ、実際の条文だと以下のようである。

第2条の2(青少年有害情報の定義) この法律において「青少年有害情報」とは、次のいずれかの情報であって、青少年健全育成推進委員会規則で定める基準に該当するものをいう。

 1.青少年に対し性に関する価値観の形成に著しく悪影響を及ぼすもの
 2.青少年に対し著しく残虐性を助長するもの
 3.青少年に対し著しく犯罪、自殺又は売春等を誘発するもの
 4.青少年に対し著しく自らの心身の健康を害する行為を誘発するもの
 5.青少年に対するいじめに当たる情報であって、当該青少年に著しい心理的外傷を与えるおそれがあるもの
 6.青少年の非行又は児童買春等の犯罪を著しく誘発するもの
第3条(ISPの義務) 特定電気通信役務提供者は、青少年でなければ青少年有害情報の閲覧ができないようにする措置、青少年有害情報フィルタリングソフトウェアなどの措置を講じなければならない。
 2 特定電気通信役務提供者は、青少年有害情報の発信が行なわれたことを知ったときは、閲覧がなされないよう措置を講じなければならない。

第5条(携帯キャリアの義務) 携帯電話インターネット接続役務提供者は、フィルタリングサービスの利用を条件としてこれを提供しなければならない。

第8条(メーカーの義務) インターネット接続機器製造事業者は、フィルタリングソフトウェアを組み込んだ上で当該機器を販売するよう努めなければならない。

第9条(是正命令) 主務大臣等は、インターネット接続役務提供事業者に対し、是正命令を出すことができる。

第10条(立ち入り検査) 主務大臣等は、インターネット接続役務提供事業者に対し、その営業所に立ち入り、業務の状況又は帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。

第12条(ネットカフェの義務) インターネットに接続した通信端末機器を不特定多数の者に使用させる事業者は、フィルタリング等[略]の措置を講じなければならない。

第19条(青少年健全育成推進委員会) 内閣府設置法に基づいて、青少年健全育成推進委員会を置く。

第31条(有害情報の規準) 青少年健全育成推進委員会は、青少年健全育成推進委員会規則を制定することができる。

32条(紛争処理機関) 主務大臣等は、一般社団法人又は一般財団法人であって、紛争処理の業務を公正かつ適確に行うことができると認められるものを、紛争処理の業務を行なう者として指定することができる。

池田信夫blogより抜粋

 人権擁護法案も酷いものだったが、これもまた酷い法案である。

 こんな法案が通らないように抗議の署名などを求められた時は積極的に参加して貰いたい。