東のエデンの今更な感想

 東のエデンのテレビシリーズ完結!
 実に面白かった! 哲学さんとしては今期では一番楽しめたアニメだった。
 ミサイル事件や二万人ニートについての件をテレビシリーズの中で終わらせてくれたので後の部分が色々残ってて、正直滝沢くんの物語は終わってないのだけれど、それでもなんかとても面白かった!
 あーでも、周りでは評判悪いみたいですねぇ。いや、海外ではとても評価がいいみたいだけど!
 まあ、ペトロニウスさんところで語られている通り、あんまり観客に分からせようとしていないのかも。
 とりあえず、考察としてはe-flick.netさんのところがお勧め。

 さてと、軽く滝沢くんの過去の行動を整理。

セレソンになる。
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他のセレソンがミサイル攻撃をすると知る。(履歴を見れば分かる)
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二万人のニートと共に力を合わせてあの手この手でミサイルの着地地点から住民を誘導し被害をゼロに抑える。
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だが、仲間だと思っていたニート達は住民の移動の中で盗みを働いたりする。
助かった住民達も何故事前に避難させられたのか納得がいかず、助けたはずが誘導した二万人のニート達にテロリスト疑惑などが行く。
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ニート達を守る為、滝沢は自分がミサイル事件の首謀者だと名乗って拉致監禁して中東へ一時的に送る。
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滝沢くんはアメリカに単身渡り、自宅に武器を沢山溜まった状態にして、ニート達の写真を部屋に用意し、記憶を消して素っ裸でホワイトハウス突撃へ
(アメリカの警察に捕まったら、自宅を調べられて滝沢がテロリストだと思われる。アメリカもミサイル事件の犯人が素っ裸でホワイトハウスに現れたとなればミサイル事件の調査に乗り出すかもしれない。
下手をすればこのテロリストの仲間がアメリカにミサイルを撃つかも知れないから。あと、記憶が消えてるので色々と罪を被るのには丁度良い)
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全ての罪を被って、外圧によって日本を救おうとしたかもしれない、記憶のある滝沢だったが、咲を助けて日本に戻る(これがテレビ版第一話)

 以降は本編の通り。見事なまでに他の誰かの為に行動してるなぁ。
 滝沢くんが本当に絶望から記憶を消したか分からないが、ニート達の犯した罪とか、他のセレソンの罪とか全部丸ごと背負って自分の記憶すら消して、自分の過去と未来を自分の思う「大きなもの」に捧げている。

王とは何か

 テレビ版の最後で彼は

「ねぇ、ジュイス。俺をこの国の王様にしてくれない?」
「王様……ですか?」
「この国には頭がいいやつが一杯いるのに、誰もめんどくさいことを引き受けようとしない。
だから、本当は嫌だけど、俺がそれを引き受けられたらな……て」



「……受理されました。ノブレス・オブリージュ。今度会う時は、素敵な王子様たらんことを」

 なんて言ったりしている。そしてまた記憶を消した。たぶん、また全ての罪を被るために。
 はてさて、ここでこの国の王様になるってのはどういうことなのかは映画版待ちだけれど――彼って人の上に立つ資質があるなぁ、と哲学さんは思う。
 組織の上に立つ者がすべきこと、てのは究極なところは「方向性を示すこと」と「責任を負うこと」(責任を負った上で決断する)だと思う。
 本人の諸々のスペックは低くてもいい。その代わり、「未来のビジョンをいかに描けるか」と言うことが大事。

「あいつらは直列に繋げば凄い力を発揮するんだ」

 それなんてスタンド・アローン・コンプレックスみたいな台詞だけれど、組織のトップがすべきことはまさにこんな感じ。
 まずはビジョンを示す。そうしたら下の者達はそれを実現するために精一杯力を発揮すればいいのである。
 滝沢くんが本編でしたことは

滝沢「ミサイルがこことこことここに落ちるらしい。なにか防ぐ方法とか、助ける方法はないだろうか」

ニート達「ここは爆弾が見つかったことにすればいいんじゃね?」「ここは田舎だし避難訓練でいいんじゃね?」「ここは毒ガスが見つかったとかいう理由で避難させればよくね?」

滝沢「おい、俺様がミサイルテロリストだ! これから日本に60発のミサイルを落とすからなんか防ぐ方法を考えてみろ! 思いついたら東のエデンサイトに書き込め!」

ニート達「避難とか」「プログラム書き換えるとか」「やっぱミサイル迎撃システムじゃね?」「自衛隊で打ち落とすのもありかと」

ジュイス「一番いい方法を抽出しました」

 トップは最終目標を掲げる。そしたら、下々の者はそれの実現のために動く。上意下達とはかくあるべしだと思う。
 なので、「未来を導くトップ」「その具体案を考える参謀」「実現する部下達」の3つのピースによって大きな組織は動くのが理想。
 部下達にいい案を出させて、その中から最適な方法を参謀が選び、トップがそれを承認する。
 そして、その「承認」と言うのは「俺が責任をとるから、やってくれ」と言うこと。
 そしたら部下達は勿論小さな責任は負うけれど、何かあればトップが責任をとる前提の上で動く。



 ところがどっこい、日本て国はどうしてもこの「責任を取る」と言う人が少ない。
 たとえば、『風雲児達』を読めば幕末の迷走が知れる。
 黒船がやってきた時に幕府は「開国か鎖国か」と迷った時に決定権を放り出して「全国の大名に意見を聞いてみよう」とか言い出してしまう。でも、他の大名達は「開国した方がいいかもしれないけど、神国日本が鎖国を解除するなんてどうかと思うし、色々考えた結果、幕府が選んでくれたらいいなぁ」と言う意見をどいつもこいつも出してきた。これはきっちりと上の者が未来のビジョンを見せられなかった例だと思う。別に鎖国か開国かを部下達に尋ねるのはいいのだけれど、これは聞き方が悪い。前提条件としてたとえば「周りの国は日本より強い(可能性が高い)。中国みたいに外国に食い物にされないためにはどうすればいい?」みたいなものを付け加えたらどうだっただろうか。あーでも、あの時代の人達は本当に上からの命令を下に流すだけのマイナスの上意下達が強かったからそれでも無理だったかなぁ。うん、色々と難しい。
 まあ、江戸時代のことはともかくとして、日本は頭がいい人がいっぱい居て、優秀な人間は沢山いる。
 でも、そのトップに立って、責任を……「高貴なる義務<ノブレス・オブリージュ>」を背負って、人々に未来のビジョンを見せる人が実に少ない。
 「高貴なる義務<ノブレス・オブリージュ>」、て実に損な役割。
 別にこれはトップだけじゃなくて、その間の中間管理職全てが背負うものだと思うのだけれど。――上の者は下の者達のアイデアの中からいいものを自分の責任(戦術的視野)で選んでトップに奏上し、更にその上の者達はその中から最適なものを組み合わせてより大規模な計画を練って自分の責任(戦略的視野)で更に上にあげて、最終的に社長などの最上位の者がそれを「トップというものの名において承認する」ことによって動く。だから、人の上に立つ者はみんなノブレス・オブリージュが発生するのだ。
 その全ての責任を負い、「救世主たれるか」と言うのがセレソン・システムだったと思う。



 その点のブレス携帯は優秀でトップが「これをしてくれ」と言ったらその最適な方法をジュイスが勝手に思案してくれて「受理されました」と言ってくれれば全てをやってのけてくれる。優秀な部下と参謀がセットでついてくるのだ。
 こう考えるとノブレス携帯のセレソン・システムとは「この国の王を選出するシステム」だったとも思える。
 このゲームのルールに「ふさわしくない者であればサポーターによって断罪される」と言うのはそれだけの責任を持って行動できるか、と言うこと。
 さらには競争原理を働かせてよりよい王を選出しようとしたと思う。



 それでもって、東のエデンてテレビシリーズの結論としては、自分一人の責任においては結局「王の孤独」によって限界がきて行き詰まってしまう、てことだと思う。
 記憶の消す前の滝沢くんは残念ながら一人であったために、「自分の記憶」という自分の過去と、更にこれからテロリストとして捕まることによって「自分の未来」も捧げようとしたのだけれど、自分の未来と過去を全て捧げてもNo.1の物部さんには勝てなかった訳で。
 それでも、最後の最後で滝沢くんは「たった一人信じてくれる人がいるから」、と言うことでもう一度記憶を消してこの国の王になることを選んだ。
 結局、世界のためとか、マクロに身を捧げる救世主にはミクロで大切なものが必要でしたよ、てことで。
 ああ、じゃあその大切なものがある癖にまた記憶を消してそれを捨てるような行為をしてるけれど、――それは実のところ捨ててない。
 一度記憶を消した滝沢くんは結局、過去の二万人のニート監禁事件の首謀者だったりとか、セレソンだったりとか、過去のしがらみはどこまでもついてきた。
 だから、彼が信じたのはまた記憶を失っても――森美 咲という少女は自分を信じてくれることに賭けたのだと思う。



 このアニメのエンディングが哲学さんはとても好きなのだけれど、特に歌詞がいい。

夜は封印 戸惑い混じれば終わる
迷いだすぐらいならいっそ 理由も捨てよう

また夢に溺れる 不確かに続いてく未来
まだ 君を許せる 意味を知れる

耳を澄ますための夜
その理由を真似て 変われる
君の呼吸を知るために 未来の根を切っても構わない

巻き戻す前に涙は枯らそう
吹き飛ぶような覚悟なら今 夢に帰ろう

また揺れる言葉が 耳鳴りのようにリピートしてる
今 わかる 君なら消えてくれる

また 夢に溺れる 今 醒める
明日消える 君を許せる 意味を知れる

君にとって 間違いの定義を教えて 変われる?
意味を持っていれるなら 未来は忘れても構わない
耳を澄ますための夜
その理由を真似て 変われる
君の呼吸を知るために 未来の根を切っても構わない

未来の根を切っても 構わない

 色々と物語とリンクしていると思う。
 「未来の根」とは未来の元になるもの、命、過去、ともとれる。
 意味を持っているのなら、過去をなくしても、意味があるのならばこれからしようとしたことも忘れても構わない、みたいな(笑)
 あー、上手くまとまらない。
 とにもかくにも……日本人てマクロに身を捧げる人が少ない。
 で、そんなマクロに身を捧げるような救世主には、それを執行するためのモチベーション維持として美少女の一人でもいた方がいいよ、てことかな(なんて結論)。


 て、かなり脱線していた。
 つまりは、滝沢くんてば人を先導したり、扇動したり、あるいは煽動したり……なんのかんので王の資質はあるなぁ、というのが哲学さんの感想。
 今までのアニメってやっぱり仲間に支えられてても、最後は自分でなんとかする系のタイマンタイプの主人公が多かったけれど、近年はチームリーダーとしての側面を強化した主人公が増えてきた。
 コードギアスで言えば、一人でバンバカ戦闘をこなすスザクと、あくまで人の上に立って指揮に徹するルルーシュみたいな。
 やっぱり、時代はリーダーを、王様を求めているんだねぇ、と思った。
 はてさて、この王様は劇場版でどんなものを見せてくれるのか。凄く楽しみだ。

そんな訳で

 なんだかまとまらない記事を書いた哲学さんです。みんなノブレス・オブリージュ果たしてますか?
 哲学さんは結構怪しいです!(酷い)
 ここのところずっと「王」とか「人の上に立つ者」について考えることが多いのですが、東のエデンにひっかけて自分の脳内の整理もかねて書いてみたのですが、いかがだったでしょうか。
 まあ、哲学さんはどちらかというと『王の資質』のない方の人間で「損な役回り」をするほどの「決断力と未来へのビジョン」もないのですが、いや、それでも別のアプローチで「未来へのビジョン」が描けたらいいなぁ、と常々思っています。
 哲学さんの本質はきっとアジテーションとかだと思うのですね。
 未来はもっといいもんだ! 残酷な世界でもやっていけるさ! て「ノブレス・オブリージュ」を果たさないで叫ぶという酷い役回り。
 以前のエントリーにも書いたけど、北方水滸伝の「宋江」になりたいと思うのですけれど、それは「替天行道」という理想を書いていた時代の「宋江」になりたいのですね。
 世界を変える一冊をいつか書きたい。
 でも、そんな「宋江」さんがいつの間にか梁山泊の頭領になってしまって「ノブレス・オブリージュ」を背負う羽目になったのは可哀想だとは思いつつも、でも、『未来』を周りに示したのだからその時点で「ノブレス・オブリージュ」は発生していたのかも知れないなぁ、とは思います。
 いや、世の中に影響を与える人間はやはり『未来』を示した責任は負うべきなんでしょうね。
 って、かなり話が脱線している。
 なにはともあれ、哲学さんは自分に出来ることをやりますか。



 ノブレス・オブリージュ。出来うるならば、人々に優しい未来を語れる救世主たらんことを。